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執筆者の写真雪女 雪代

第十一話『シャラク』

レオンの店員からは目ぼしい情報を得る事は出来なかった。彼らは全員がアルバイトで、毎日たくさんのお客さんの相手をしているから、余程の常連や問題行動を起こした人以外の顔はあまり覚えていないとの事だ。社内規定という物があり、監視カメラを見せてもらう事も出来なかった。

 わたしと浩介がウィザード・ブレイブのバトルフィールドにトボトボ戻って来ると、ブレイバーの四人は興奮した様子で待ち構えていた。ちなみにブレイバーはウィザード・ブレイバーの略で、ウィザード・ブレイバーはアニメの用語。ウィザード・ブレイブのプレイヤーをそう呼称するらしい。


「どうだった?」

「……店員さん、何も覚えてないって」

「監視カメラも見せてもらえませんでした……」


 ガッカリしているわたし達を気遣うように彼らは椅子を運んで来てくれた。


「で、でも、我々は手掛かりを掴みましたよ!」

「そうそう! 多分だけど、悠斗くんのアカウントを見つけたんだ!」

「え? 悠斗のアカウント!?」


 わたしは浩介と顔を見合わせた。


「そうそう! 『ZERO』って、聞いた事あるかな? 前までは『アクセル』って呼ばれてたSNSなんだけど」

「あっ、はい! 聞いた事があります。よく、テレビとかで!」

「そのZEROに悠斗くんの物らしきアカウントが見つかったんだ。ほら、これ」


 ロボットのイラストが描いてあるシャツを着たブレイバーがスマホの画面をわたし達に向けた。アカウント名は『シャラク』というオシャレなワードだった。


「シャラク?」

「ウィザード・ブレイブのモンスターの名前だよ」


 髪の長いブレイバーが教えてくれた。


「これがゆうちゃんのアカウントなんですか?」

「うん。外部ツールを使ったんだ。年齢と所在地、ウィザード・ブレイブのワードで検索を掛けてみたらそれなりの数がヒットしたんだけど、そこから更に2月26日前後で更新が止まっているアカウントを探してみた。後は候補のアカウントを四人で手分けして調べていたんだけど、ここを見てよ」


 一番太っているブレイバーがスマホをスクロールして、とあるつぶやきをわたしに見せた。そこには決定的と思えるワードが含まれていた。


「『こーちゃんに蘭子が自分の事をどう思ってるか聞いてくれって言われた。ウケる』……」

「わたしの名前だ!」

「お、俺との事、ZEROで呟いたのかよ……」

「……小学生ですからなぁ」

「ネットリテラシーがガバガバ」

「まあ、おかげで見つけられたんだけどな」

「っていうか、最近の小学生凄いな」

「あ、あの! もっと良く見せてもらえますか!?」

「良いけど、自分のスマホで見た方がいいと思うよ? アカウントもすぐ作れるし。プラウザを開いて、検索窓にZEROって入れてみなよ。一番上に来る筈だから」

「は、はい」


 言われた通りに操作してみると、彼の言葉通り、ZEROのアカウントはすぐに作る事が出来た。


「このアカウント検索の所で『蘭子が自分の』って入れてみてよ。それでこのつぶやきを検索出来る筈だから」

「はい」


 見つかった。|シャラク《ゆうちゃん》のアカウントだ。

 見てみると、かなりの頻度で呟いていた事が分かった。


「ゆうちゃん。本当にSNSをやってたんだ……」

「まあ、授業でタブレットの操作方法とか教えられてるっぽいしな」


 これは大きな手掛かりだ。わたしは最新のつぶやきからゆうちゃんの行動を遡る事にした。


 ―――― 2月26日 16:32 公園に到着! バトルフィールドはどこだろ? シャラクと一緒に優勝するぞ!


 それが最新のつぶやきだった。


「公園? バトルフィールドって、ウィザード・ブレイブのだよね?」


 ―――― 2月26日 16:26 バスに一人で乗るの初めてだ。降りる駅を間違えないようにしないと! 次が伊山町三丁目だから、あと3つだ。


「ゆうちゃん、バスに一人で!?」

「……伊山三丁目から3つ。その範囲で公園となると……」

「蛹内森林公園だよ。もうちょっと先まで読むと分かるけど、ウィザード・ブレイブの大会が開かれるって話を聞いたみたいなんだ」

「大会? それに出る為に悠斗は……」

「ただ、ちょっとおかしいんだ」


 露出の多い女の子のシャツを来たブレイバーが言った。


「その日に大会なんて無かった筈なんだ。調べてみたけど、告知も何も無かったし……」

「大会が無かった……? だけど、悠斗は……」


 わたしは浩介と顔を見合わせた。


「ちょっと下までスクロールしてみてよ」

「うん」


 言われるまま下までスマホをスクロールしていくと、該当のつぶやきに行き当たった。


 ―――― イグニッション・キャリバー、どこにも売ってない。でも、うっちゃんが大会の景品になってるって言ってた。17時から始まるみたいだ。行ってみよう!


「イグニッション・キャリバー?」

「たしか、最新のパックは『竜戦士の伝承』だって、双六堂では聞いたんだけど……」

「イグニッション・キャリバーは海外での先行発売だよ」


 髪の長いブレイバーが教えてくれた。


「日本では来月からだ」

「それが大会の景品になってたって事?」

「……可能性は無い事もないけど、その場合は海外版だ。英語オンリーだから、普通には使えないよ」

「まあ、その大会自体が眉唾物なんだけどな」

「うっちゃんってのが大会の事を口にしたっぽいね」

「うっちゃん……」


 それは恐らくゆうちゃんのクラスメイトの内田翔太くんの事だ。ゆうちゃんは彼の事をいつもうっちゃんと呼んでいた。


「うっちゃんに心当たりがある感じ?」

「はい!」

「じゃあ、もう一個。多分だけど、悠斗くんが訪ねたカードショップは『蓬莱館』だ」

「蓬莱館ですか?」

「ここから少し距離があるけど、カードの品揃えは市内屈指なんだ。ほら、ここを見てよ」

 

 一番太っているブレイバーが一枚の写真を見せて来た。

 そこには彼の隣のブレイバーが着ているシャツの女の子の巨大な人形が映っていた。イラストの時点で結構際どい感じだったけれど、立体になると一層際どくなっている。


「悠斗くんがつぶやきに載せていた物なんだけど、これは蓬莱館の店内に置いてあるものなんだ」

「ゆうちゃん、これを写真に撮ったんだ……」

「いや、変な意味はないと思うよ!? 誘いの魔法少女・ミリアルはかなり強い上にアニメのヒロインのメインカードだから、かなり人気があるんだ! それが理由だよ、きっと!」


 ミリアルのシャツの彼は必死な顔で言い繕った。


「そうなんだ……。浩介はこういうの好き?」

「え!?」


 浩介は目を泳がせている。


「好きそうだな」

「好きそうだね」

「なかーま」

「まあ、ミリアルが嫌いなブレイバーはいないからね」

「い、いや、ちがっ! な、なんとなく蘭子に似てるって思っただけだ!」

「……わたし、似てるかなぁ?」


 確かに髪型は似ているかもしれないけれど、ミリアルは金髪碧眼の美少女だ。


「た、たしかに」

「言われてみると」

「なるほど、彼女がコスプレしている所を想像したわけか」

「ムッツリという事か!」

「ち、違う! というか、こんな話をしてる場合じゃない! 手掛かりは掴めたんだ。次は蓬莱館に行くぞ。あと、うっちゃんの家にも話を聞きに行かないと!」


 浩介は慌てた様子で話をすり替えた。だけど、彼の言葉はもっともだ。


「あっ、折角だから我々のアカウントを教えておくよ」

「力になれるか分からないけど、ウィザード・ブレイブの事なら分かるからさ」

「他にも何か分かったら教えられるしね」

「そ、そうそう!」


 力になれるか分からない。そんな事を言う彼らが信じられない。

 彼らのおかげでわたしはゆうちゃんの知らなかった一面を知る事が出来た。ゆうちゃんの体を探す為の手掛かりを得られた。何も覚えていない店員さんと話したり、あてもなく彷徨うだけでは絶対に得られなかった情報だ。それを齎してくれた彼らは十分以上に力になってくれた。


「お願いします! それから、本当にありがとうございました!」


 わたしが頭を下げると、ブレイバー達は言った。


「な、何か分かるといいね」

「その……、難しいとは思うけど元気だしてね」

「いつでも連絡してよ! 協力するからさ!」

「が、がんばれ!」

「はい!」


 彼らと別れ、わたし達は次の手掛かりを求めて蓬莱館へ向かった。

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