パパとママは家中のどこを探しても見つからなかった。凄く嫌な予感がして、わたしはパパのスマホに電話を掛けた。コール音が三回鳴ったところでパパが応答してくれた時、安心感のあまり腰が抜けそうになった。それくらい、わたしは強い不安感を抱いていた。
『蘭子か?』
「パパ、どこにいるの!?」
『すまない。今は駅前にいるんだ。ママがどうしても見つからなくて……』
パパの言葉に息が止まりそうになった。
「ママが!? ス、スマホには電話したの?」
『もちろんだ。だけど、何度電話を掛けても繋がらなくて……』
「そんな……」
目眩がする。ママにまで何かあったらと思うと、わたしは悲鳴を上げそうになった。
「……ママも、いなくなっちゃうの?」
『落ち着きなさい、蘭子。大丈夫だ。ママはいなくならない。パパが絶対に見つけるから! それより、蘭子は大丈夫か!? 浩介くんは一緒か?』
「……ううん。浩介はいないよ。あっ、そうだ! 警察の人が来てるの!」
『え?』
わたしは慌てて立ち上がった。
「そうだよ! ママの事も警察の人に相談すればいいんだ!」
『ま、待ちなさい! 本当に、その人は警察なのか!?』
「え? そ、そうだよ? 瀬尾さんっていう人」
『せお……、ああ! そ、そうか……』
パパも瀬尾さんの事を覚えていたみたいだ。
「ママの事、話してみるね」
『ああ、頼む。一応、パパも一度帰るよ』
「うん」
わたしは通話を切って、急いで玄関に戻った。
「お待たせしてすみません!」
『いえ、構いません。それより、友枝さんは?』
「それが……」
わたしはママが居なくなってしまった事を話した。すると、瀬尾さんはモニターの向こうで眉間に皺を寄せた。
『もしも、友枝さんの行方が掴めたら署に連絡をお願い致します。わたくし共も、発見次第一報を入れさせて頂きますので』
「は、はい……」
頷きながら、わたしは違和感を覚えた。
「あ、あの! どうして、ママに会いに来たんですか?」
『それは……』
言い淀む瀬尾に業を煮やし、わたしは玄関を飛び出した。直接、瀬尾を問い質すためだ。
すると、そこには瀬尾以外にも背広を着た男女が三人いた。彼だけだと思っていたわたしが目を白黒させていると、三人は目配せをし合い、女性が代表するように口を開いた。
「結崎蘭子ちゃんね。わたしは蛹内署の天音瑞希よ」
「こ、こんにちは……」
やはりと言うべきか、瀬尾以外の二人も警察官だった。
「蘭子ちゃんは双六堂を知ってる?」
「は、はい」
知っているも何も、昨日、その場所を訪れたばかりだ。
その店の店員である手塚葵はゆうちゃんが来ていたのに、来ていないと嘘を吐いた。
「実は、その双六堂で殺人事件が発生したの」
「さ、殺人事件!?」
わたしは驚きのあまり言葉を失った。
「……驚かせてごめんなさいね。その件で、あなたのお母さんから話を聞きたかったの」
「ど、どうして、ママに?」
「双六堂の防犯カメラを確認した所、あなたのお母さんが伊山小学校の白鳥先生と一緒に映っていたのよ。だから、話を聞きたいと思って来たの」
「ママが白鳥先生と!?」
ママは事件を調べている事は知っていた。だけど、白鳥先生とタッグを組んでいたなんて思わなかった。
「……そう言えば」
―――― あなたのお母さんと白鳥先生からも聞かれたのだけど、翔太は双六堂で会ったみたい。
あの時はスルーしてしまったけれど、うっちゃんのお母さんがママと白鳥先生に話を聞かれたと言っていた。
「ねぇ、蘭子ちゃん」
天音さんは試すような口調でわたしの名を呼んだ。
「あなたも伊山小学校に通っていたのよね? 白鳥先生って、どんな人?」
「おい、天音!」
彼女が口にしたのはちょっとした質問だった。それなのに、瀬尾さんは責め立てるような目で彼女を睨みつけた。まるで、天音さんが犯罪でも犯したかのような態度だ。
「えっと……、白鳥先生はすごく良い先生ですよ? みんな、先生の事が大好きでした」
「へー、そうなんだ! すごく良い先生なんだ、あの白鳥彩音が!」
天音さんは瞳を爛々と輝かせた。何故か分からないけど、すごく嬉しそうだ。
「天音、いい加減にしろ!」
「良いじゃないですか! どうせ、すぐにニュースや新聞で知る事になるんですから! あっ、今の子はSNSで知る方が早いのか!」
「天音!」
何の事だろう。盛り上がっている二人にわたしは戸惑った。
その時だった。
「蘭子!」
「ちょっと、なんなの!?」
急にわたしと天音さん達の間に二つの影が割り込んで来た。
見慣れた制服を着た、見慣れた後ろ姿。
「あ、亜里沙? 紗耶?」
|三上亜里沙《みかみ ありさ》と|浅見紗耶《あざみ さや》。
わたしの幼稚園の頃からの幼馴染達だ。
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